教室の後ろでピアスを開けようとしていた山田(仮)のこと

うちの田舎で全国ニュースになるレベルの事件が起こった。あんなにのどかな場所でも、ドンパチ騒ぎは起こるのだなあ。

そんなことを考えていたら、山田(仮)という男のことを思い出した。中学時代のクラスメイトで、それはもうヤンチャなやつだった。

最初に掘り起こされた記憶は、教室の後ろでピアスを開けようと仲間たちと騒いでいる姿。突発的に思いついたようで、耳たぶに画鋲を刺そうとしていた。

つくづく、それがいじめではなくて、山田(仮)自身の耳たぶでよかったと思う。

色々と問題を起こす男で、学校全体の行事に参加させてもらえないことがあった。

山田(仮)軍が入ってこないように、鍵をかけられた体育館のなかで集会がはじまった。山田(仮)軍は猿のように体育館の外壁を上り、窓をドンドンと叩いて騒いだ。前に整列していた女教師が、ハンカチで涙を拭うのを見た。

山田(仮)は換気のために開けていた上のほうの窓から侵入してきた。怒り心頭の体育教師が、彼を背負い投げした。

もしこれが体罰で問題になるのなら、世界は狂っている。そう思ったのは、あの空間で自分だけではなかったはずだ。さいわい、体育教師はお咎めなしだった。

ここで記憶に自信がなくなるのだが、山田(仮)が大きな問題を起こして学校にもう来られないということになった。つまり退学だ。しかし中学校に退学ってあるのか……?

(もしかしたら高校時代の記憶かとも思ったけれど、進学校だったのでさすがに山田(仮)のように荒れ狂うやつはいなかったはず。退学とは……?)

「山田(仮)、クラスメイトだよ? みんなで卒業したいじゃん!」

クラス対抗の合唱コンクールなんかで張り切るタイプの女子が声を上げた。「ちょっと、そこの男子ちゃんとやってよ!」とヒステリーを起こすタイプ。そうだ、本当に彼女、ピアノの前で過呼吸を起こしたことがあったな。

その女子を中心に、山田(仮)が学校に戻れるように署名活動が行われた。「まだ書いてないよね?」クラスメイトはほとんど強制で、ノーと言える雰囲気ではなかった。

山田(仮)とは個人的な付き合いは一切ない。こちらは嫌でも山田(仮)を知っているが、山田(仮)は自分の名前すら認知していない気がする。

その後、山田(仮)がどうなったのか覚えていないし、おそらく署名運動はうやむやになった。

ただ、教師から「むやみに個人情報を書かないように」と注意を受けて、納得いかないような気持ちになったことだけは覚えている。