週末、電車での移動時間にAudibleで宮本輝の「小説が生まれる時」を聴いた。1993年の講演会を録音したもので、宮本輝自身の声が、会場の笑いとともに吹き込まれている。
一言で言うと、めちゃくちゃ面白かった。話にぐわっと引き込まれた。
宮本輝の作品をたくさん読んでいるわけではないのだけど、忘れられない思い出がひとつある。
学生のころ、現代文のテストでのことだ。戦後の大阪、2人の少年の友情を描いた『泥の河』の一部が抜粋されて問題文になっていた。
裕福とはいえないまでも両親と幸せに暮らす食堂の子と、男を客にとる母とともに廓舟で暮らす子。
2人は仲良くなるのだけど、やはり生き方が違う。抜粋された部分は、廓舟の子の心の闇が表出する部分でぞわぞわとした。
テストで抜粋されたほんの一部分で「これは面白いぞ!」と興奮して、さっそく文庫を手に取って夢中で読み切った日が懐かしい。
そんな思い出があるものだから、1993年のものとはいえ、宮本輝の若々しい肉声にはちょっと不思議な感じがした。
当時40代半ばくらいか。見事なイケオジ声である。
創作論的な響きもある「小説が生まれる時」というタイトルに惹かれて聴き始めたのだけど、内容的には宮本輝の生い立ちと作家になったきっかけが語られる。
浮気性で殴る父、酒に溺れる母、借金の取り立て、病気……語られる過去のひとつひとつが重たく辛い出来事で、いわゆる「自分語り」でもあるのだけど、彼の洒脱な語り口もあって、ぐわっと物語に引き込まれる。
1時間の講演会が、数分に感じるほどあっという間だった。
おもしろさに呆然として、ストーリーテリングってこういうことかと納得した。