PERFECT DAYSの、あの店

乗り換えで上野の駅をすたこら歩いていたら、夫とふたりしてピタッと足が止まった。

現代から取り残されたような、ノスタルジックな一角。ものすごい既視感。というか、見た瞬間の「あっ」という確信。

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ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』で、主人公(役所広司)が夕飯に一杯やっていくあの店である。

主人公がいつも座っていた席も、椅子の形も、そのまんま。そんな細かなところまで、自分は映画を観ていたのかということにもビックリだけれど、鮮やかにあの映像が蘇ってくる。

写真を1枚だけ撮って、思い出したようにまたすたこら歩き出す。

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引っ越し先の候補のひとつを内見してきた。残念ながら即決で「ナシ」となった部屋なのだけど、窓からスカイツリーの半身が見えるのにはとても興奮した。

いい物件は見つからず、くたくたになって帰宅する道中、改めて『PERFECT DAYS』のあのお店を思い出す。

映画の世界が目の前に広がる不思議と、それをちっとも気にも留めず歩き続ける通行人。実際に飲食している客と、カウンターの奥でのんびり会話している様子の店員。現実なのに、うまいエキストラだなと感心してしまう。

電車で座っていると、目の前に美男美女カップルがやってきた。男性はすらりとして清潔感のあるイケメンで、女性は明るい茶髪をゆるく巻いたヘアスタイルがお似合いの華やかな雰囲気。ぼそぼそとしゃべっていて最初は気づかなかったが、日本人ではないようだ。

女性の左手の薬指には指輪が光っている。二人の指先は戯れるように触れ合い、そこまで混んでいない車内でぎゅっと密着している。

どんな甘い会話が繰り広げられていたのかは不明だが、突然女性の細い指先が、イケメンの股間をぎゅっと握り込んで我が目を疑った。もちろん(?)デニムの上からで、男性は何事もなかったようにやんわりその手を引き剥がしていたけれど。

とても絵になる光景が、一瞬にして白けてしまった。

生まれは九州のど田舎だから、余計に思ってしまうのだろう。虚構と現実が当たり前に交錯する東京。不思議で、ちょっと怖くて、妙に惹かれる街である。

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