六本木ヒルズの森タワーに行ったことのある人なら、「ああ、あれか」と察しのつく人も多いと思う。
巨大な蜘蛛のオブジェを作ったアーティストの個展に行ってきた。フライヤーによると国内27年ぶりの大規模個展。その名も
ルイーズ・ブルジョワ展 地獄から帰ってきたところ言っとくけど、素晴らしかったわ
今どハマり中の『悪役令嬢の中の人』の主人公に似合いそうな副題にゾクゾクとする
※以下、紹介する作品の写真が人によっては生々しくショッキングに映るかもしれないので注意
ルイーズ・ブルジョワ(1911年パリ生まれ、2010年ニューヨークにて没)彼女の作品は、男性と女性、家族、母親、父親に対する愛憎や不安、トラウマなどをインスピレーションに、
例えば、グロテスクともいえる男性器のオブジェに『少女』と名づけるような直接的で、生々しくも分かりやすいとも言えるものが多いなかで
それでも自分のなかでどう消化していいか分からず、静かにパニックになって押し黙ってしまうような展示会だった。
それでも、自分なりの感想というか、印象を言葉で残しておくとすれば
展示会を後にして最初に強く欲求したのは
「たくさん食べねば」ということだった。
それは、女性的な感覚だったという気がする。
食べたい、とか、食欲がわいたというわけではなく、失ったものを、出ていってしまったものを、生存本能的に『補わねば』ならないという感覚だ。
授乳、家族、出産。水彩のようにじゅわりと滲む赤い絵画は、血で描いたといっても納得してしまう生々しさで、不意に、母乳というのは血液なのだということも思い出さずにはいられなかった。
頭部のない美しい青年が背中を反らせた無理な姿勢のブロンズ『ヒステリーのアーチ』
ヒステリーを起こすのが女性という固定観念を覆すものという解説があった。息を呑むほど美しい背景は、実際の東京のビル群である。
ガラスの中で縫い付けられて永遠に離れられないのに決して幸せそうではない男女のぬいぐるみ、檻のなかで繋がりを求めているような生首(みたいに見えるオブジェ)など、
言い方は悪いが、私が好みのモチーフ群ながらも、それを気安く「好き」とは言えない禍々しさ、生々しさを纏う個展であった。
正直、圧倒されたこと、容易に近づいてはならないと怖気ついたこと、作品ひとつひとつから逃げるように出口に進んでしまったもどかしさしか残っていない。
それでも展示会のなかで、突き刺さるように飛び込んできた言葉を、知らなかったときより、今のほうがずっといいと思う。