異常な心、抑圧された記憶、狂気と憎悪の長編ミステリー『トラウマ』Jケラーマン

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古本屋散策中、目に留まった『トラウマ』という1冊。残酷な連続殺人鬼裁判の陪審を務めたことで悪夢に魘されるようになった女性が、自分のなかに閉じ込めていた恐ろしい記憶と向き合うことになる物語。作者はジョナサン・ケラーマン。

臨床心理士アレックスシリーズの1冊というのはあとになって知った話で、また追いかけるのが楽しみな作品と出会ってしまった。運よくシリーズの別作品も入手済み。やっぱり昭和~平成初期のおどろおどろしいミステリーが好きだ。

物語を一言で説明すると、異常心理を抱える人々や深層心理を取り扱う作品。悪夢に魘されるルーシーを医師として救うため、アレックスは親友で刑事のマイロとともに過去の事件を調査していく。

「面白かった!」と言いたいのだけど、完ぺきに理解できたかは正直怪しい。前のページに登場人物表が載っているんだけど、確認しても誰がどれだかこんがらがってしまった。真相が気になって先に先に進んでしまい、結局全体図はあまり掴めないまま終わってしまう。

けれど、玉ねぎのように重層的ながら、核は実にシンプル、という読後感は好印象。そこまでモヤモヤは残っていない。

直接的な残酷描写はないけれど、異常な犯罪者たちと社会的熱狂にもゾッとさせられる。ルーシーが悪夢にうなされるようになったきっかけの連続殺人鬼の所業はもちろん、そんな彼の信者になって自由を訴える女性たちのムーヴメントがはらんだ狂気。

そして、女性をひどく憎悪している男たちの心模様。人間っていうのは、どうにもやりきれない存在である。

思えば、そのすべてが「嘘っぽくない」。

フィクションとはいえ、現実にありうる出来事ばかりで、人物表を置き去りにしてまでも先が気になって仕方がなかったはずである。

確信をもってズバッといえるのはアレックスがハンサムというくらいだけど、『トラウマ』というタイトルから匂ってきた人間の不穏さを、期待通り、ありありと味わえる1冊だった。

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