ブログタイトルの通りである。東野圭吾の『名探偵の掟』を笑って読める人、お友だちになりましょう。私は昨日初めて読みきって、大好きになった。
ひとことで、なんてこった! な小説である。
主な登場人物は、頭脳明晰、博学多才、行動力抜群の名探偵・天下一大五郎と、見当はずれな推理を振り回す刑事(警部)・大河原番三。
本格ミステリによくある組み合わせだ。基本的に、大河原=「私」の視点で語られており、その中身がまずぶっ飛んでいる
こういう探偵小説において我々脇役が一番気をつけねばならないことは、決して名探偵よりも先に真犯人をあげたりしないということだからだ。天下一探偵が真相に達するまでは、見当はずれな捜査をして時間を稼がねばならない。
「とぼけるな。医者なら死体を切り刻むのも慣れているはずだ」
「そんな無茶苦茶な」
無茶苦茶をいうのは、この小説における私の仕事である。
大河原と天下一には、自分たちが小説の中の人という自覚がある。時おり、小説の世界から飛び出して、本格ミステリーや作家(生みの親)について相当の毒を吐く。
「もっと詳しく話したいところなんですがね、これ以上はさすがにネタばらしになるのでいえない。ああでも、こんなインチキの片棒を担ぐなんて……」天下一は頭を抱え、うずくまった。
「ごちゃごちゃいっとらんで、小説世界に戻ろう」私は彼の首根っこを掴んで、無理やり立たせた。
「密室」「意外な犯人」「クローズドサークル」「時刻表トリック」「童謡殺人」etc... 本格ミステリで王道の謎解きを皮肉りながらも、天下一と大河原は物語を成立させるために名探偵とポンコツ警察の役を演じきる。
エピローグとプロローグ、最後の選択のほか、全12章仕立ての長編形式ではあるが、それぞれが独立しており連作短編の趣だ。
天下一と大河原の努力もあって成立してきた謎解きも、章が進むごとに(いわゆるシリーズ化として長くなる)徐々にネタ切れして苦心してくるところも、息の長い名探偵小説のツラさをたったの1冊で体現している。
なかなか毒のあるコミカルな内容ながらも、単なる悪ふざけになっていないのは、本格ミステリの素養と愛とが、土台としてしっかりとそこにあるからだろう。
本格ミステリを網羅した教本的な側面もあり、折を見てまた読み返したいと思う1冊である。ちなみに実写化されると主要人物の性別変わりがちには吹いた。