有栖川有栖の『46番目の密室』を再読している。臨床犯罪学者・火村が探偵を務める大人気<作家アリス>シリーズの1作目だ。
犯人や大まかなトリックは覚えていて、前回はさらりと読み流していた地の文や描写がやけに鮮やかに映って別の楽しみがある。
たとえば、イギリスに行った火村がアリスにおつかいを頼まれて出向いたという「マーダー・ワン」。ロンドンの神田神保町と呼べる場所にある、推理小説専門書店だという。
かつて、アリスもそこでついシズコ・ナツキを買ってしまったことがある、という何気ない文章にミステリ好きの心が疼いてくぅ~っと拳を握りしめてしまう。行ってみたい!
『46番目の密室』を初めて読んだときは、<日本のアガサ・クリスティ>こと夏樹静子のことをまだ知らなかったから、多少知識を蓄えてからこの手の新本格を読み直すのも乙なものですね。
舞台となる雪降る大別荘で流されているのが、グレン・グールドが奏でる『ゴールドベルク変奏曲』。クラシックはさっぱりだけど、バッハが不眠の伯爵のために書いた世にも美しい子守歌というさらりと挟まれた蘊蓄にふむふむと気分が盛り上がる。
火村もグールドファンと知るや、青年が「レクター博士と同じだ」と盛り上がるのがまたいい。
「レクター博士って『羊たちの沈黙』のアレでしょ? 殺人鬼の天才。私、ファンなんだ。へぇ、火村先生もですか」
真帆は感心したように火村を見た。殺人鬼の天才のファン、か。確かにハンニバル・レクターというキャラクターはよくできている。
『46番目の密室』をずっと読み直したいという気持ちがあって、それは推理作家たちが集うクリスマスの別荘っというシチュエーションが好みだからだとばかり思っていたけれど、有栖川有栖の生み出すキャラクターと文章が大ッ好きなのだ。
真夏には深緑の中に映える白亜の邸宅が、今は雪の白さと競っていた。
難しい言葉はなく、シンプル。なのに詩情を感じられる。
早く、続きがよみたい~!