クーンツの『ストーカー』が好きすぎる

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ディーン・R・クーンツの『ストーカー』。そうそう、こういうのを求めていた! と興奮するくらい、自分好みでめちゃめちゃ面白かった。

主人公は、新婚ほやほやのアレックス。新妻に両親はなく、年の離れた弟コリンの親代わりを担っている。

アレックスは義弟となった11歳のコリンと親睦を深めるため、新居まで5000キロの道のりをかけて2人きりのドライブに繰り出す。楽しいはずの旅が、ずっと後ろをつけてくる1台のヴァンによって悪夢に変わっていくーー。

このあらすじの「どこがストーカー?」と思うけれども、読んで納得。ここ最近で読んだストーカーもの(栗本薫の『あなたとワルツを踊りたい』や春日武彦『屈折愛』など)と変わらぬ狂気があった。

アレックスはいささか男らしくない態度を認めるべきかどうか一瞬ためらった。不気味なヴァンに追われて不安になり、動揺し、警戒して、心配になったのだ。が、コリンに対しては正直がいちばんだった。
「そりゃ、こわかったさ。ちょっぴりだが、こわかったことに変わりはない。とうぜんだろ」
「ぼくもこわかった」ばつの悪い思いをしているようすはなかった。「でも、大人になればこわいものなんかなくなると思ってたんだ」

ひとまわり以上、年の離れた義兄弟だけれど、弱虫なところは似た者同士。しかしアレックスは愛すべき妻と義弟を守るために生まれ変わろうとしている。

その葛藤が物語をものすごく面白くしているし、臆病だったかつての少年が愛すべき人を守ろうと変わっていくビルドゥンスクロマンだった。

なんてことだ。おびえた小さな男の子がいつまでも消えず、大人になるのを阻んでいる。おまえはいつまでたっても大人になれないのか、アレックス。この先ずっと、ちょっとしたことにもおびえていくのか。(中略)これまでずっとアレックスは人々をこわがってきた。臆病のあまりだれとも親しくなれず、自信がなくて愛することをおそれていた。コート二ーに会うまでは。そしてコリンに。

そして、アレックスに対するコリンの思いがまたいじらしい。

助手席で精一杯大人ぶろうとしていて、けれどアレックスに褒められると有頂天になってしまうところ。まだまだ甘えたい盛りの少年なのに、愛する家族の危機に条件反射的にも飛び込んでいく。

ときにはアレックスに飛びついて抱きつき、ずっとしがみついていたいと思うこともあった。コートニーがアレックスとつき合っているあいだ、そのうち彼を失うんじゃないかとずっと心配だった。(中略)アレックスが自分たちのものになったいま、彼に抱きつき、そばにうろついて彼からいろいろ学びたかった。しかし、抱きつくような真似はできなかった。気持ちを表す方法としては幼すぎるように思えるから。長いことせいいっぱい背伸びをして大人ぶってきたため、いまさらほんとうの自分を出せなかった。

かつてクーンツの『インテンシティ』を読んで(若い女性がたったひとりで連続猟奇殺人者に立ち向かう)、それが本気で翌日寝込むくらいショッキングで怖くて、彼の作品は自分にハードルが高いかも……とちょっとトラウマになっていたんだけれど。

現金なもので今すぐ他の作品も読みたくなっている。

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