ベストセラーのDNA│売れる小説は予測できるのか?

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ベストセラーと呼ばれる、驚くほど売れる本がある。尋常ではない売れ方は、市場の例外で、嬉しい外れ値なんだろうか?

「ベストセラーは予測できるのか」をテーマにした『ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』。コンピューターの分析から、ベストセラーになる本の秘密を研究した1冊だ。

計量文献学でベストセラーを予測する研究

上梓されたのは、世間が生成AIで賑わうよりも少し前で、本文には2005年あたりがリアルタイムで出てくる。

本書のベースは、作家の文体をコンピューターで研究する「計量文献学」だ。

コーヒーを手に、巨大な用紙を眺め、thingという単語がベストセラーには6倍多いとわかって興奮しているふたりを想像してみてほしい(実際にそんな感じなのだ)。

学術的でちょっととっつきにくいかと思いきや、むしろオタクのような熱さというか、著者たちが好奇心旺盛に研究している雰囲気が伝わってきて、一気読みに近かった。

ベストセラーは「予測できる」

そして肝心のベストセラーは予測できるのかという疑問は、ほとんど「できる」と言っていい。著者たちの分析では、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載る本を80%の確率で当てられるというからだ。

分析内容は文体やプロット、キャラクターと多角的で、例えばtheやofといった簡単な単語の使い方で書き手の性別が分かったり、theを調べるだけで著者がアメリカ人かイギリス人か判別できたりする。

そしてその研究結果は、驚くほど“真理”を突いているようにも感じた。

データは、ベストセラー小説における男女の役割には違いがあることを示している。行動することはするのだが、その行動には違いがある。何かを費やして(spend)、歩いて(walk)、祈る(pray)のは共通しているが、男はキスをして(kiss)、女は抱きしめる(hug)。男は女よりも飛んで(fly)、運転して(drive)、殺す(kill)。女は男よりもおしゃべりをして(talk)、読んで(read)、想像する(imagine)。<中略>どちらも愛する(love)が、憎む(hate)のは女。どちらも眺める(see)が、見つめる(stare)のは男で、見つめる先にはたいてい女がいる。

ベストセラー小説の話が、そのまま人間そのものについて語っているように錯覚する。

言語や国民性の違いはあれども、日本人の書き手にも参考になる部分はかなり多いと思う(売れる小説のキャラクターにはneedとwantが欠かせない、とか)。

ベストセラーを予測できるなら「書くこともできる」?

さて、ここまでコンピューターがベストセラーを予測できるのなら、「書くこともできるのでは?」という疑問が浮かぶ。コンピューター、今で言うならAIでベストセラーは書けるのか?

著者のスタンスでは「NO」である。理由はシンプルで、それを創造とは呼ばないから。

確かにテクノロジーは日々進化しているけれど、それはコンピューターやAIに創造性や感情が備わる方向に進んでいるというより、たくさんの情報を一度に処理してコピーする能力が伸びているに過ぎないのだ。

何かの本か動画で、「AIは使い手の能力以上のものは生み出せない」というのを知って心に残っていたのだけど、AIにできるのは、あくまで模倣であって、創造ではない。

それよりは、研究から得たことをもとに、ペンと紙とともに机に向かうほうを選びたい。

予測できることと、創造することは、きっと別物なのだ。

余談。本書内で、アルゴリズムが選んだベスト100冊が公開されている。一気に読みたい本が増えた。

the-day-i-cried.com

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