初めて予告編を目にした時から気になっていた『教皇選挙(コンクラーベ)』を観てきた。
右といえば左と分かれるくらい、普段は意見が真逆をいく夫と珍しく「これ、観たい」が一致した作品だ。
カトリック教会の最高指導者=教皇を決めるコンクラーベ。世界的に注目度の高いイベント(?)ながら、外部と一切遮断した密室で行われる。まさに秘密のベールに包まれた内幕はいかにいかに。
主演は、ハリー・ポッターシリーズのヴォルデモートの印象が強いレイフ・ファインズ。コンクラーベを取り仕切る首席枢機卿(すうききょう)で、その親友役は、『プラダを着た悪魔』で主人公の良き相談役だったスタンリー・トゥッチ。
SNSで、著名なミステリ作家たちも好印象な感想を投稿していたから期待値は高め。実際に観てみると、なるほど、エンターテインメントのようにワクワクとして「もう一度観たい!」と興奮する作品ではないけれど、“味わう”という言葉がぴったりの贅沢なミステリーだった。
簡単に紹介すると、教皇の座を狙う男たち(枢機卿)のバチバチバトル。その野心むき出しの様相たるや、聖職者というよりも政治家に近い。
特に印象的だったのは、投票が進むにつれ、「誰が教皇になるのがマシか」という雰囲気が漂ってくることだ。
もっとも優れた、相応しい人間が教皇になるのではなく、有力候補のなかで「誰がマシか」という駆け引き。
とある枢機卿がこぼした、「私たちは理想に奉仕するのであって、理想そのものではない」といった言葉が、良くも悪くも彼らも私たちと同じ、親しみのある存在なのだと教えてくれる。
もっとコンクラーベそのものの仕組みも知りたくて購入したパンフレットでは、寄稿者の多くが家父長制や女性たち(シスター)の存在を取り上げていた。やさしい用語解説がついていて、歴史初心者には大変ありがたい。
ミステリー的には、このパワーゲームを制し、「教皇になるのは誰か?」という部分がクライマックスになるわけだけれど、選ばれた意味とラストシーンには、今思い出しても“震える”。
フィクションだからなしえたともいえるし、メッセージ性の強さともいえるし、文句なしに極上。